「我」はどこにもないことが「無我」

仏教は「無我」を解く教えです。現代の考え方では「自我」が非常に大切にされます。一方、無我というと「無我夢中」や「無我の境地」といった言葉が思い出されます。無我夢中といえば、われを忘れて何かをしている様子です。勝負ごとにわれを忘れる、時間を忘れて遊んでしまう、あるいは一つのことに一新に打ち込むことです。無我の境地というと私心なく執着を離れた無心な心の状態でしょうか。このように無我という時は、忘我とか無心といった場合が多いのですが、仏教の教えでいう無我は違っています。
仏教で無我という場合は「我」というものは「無い」という意味合いです。私たちは自分というものが固定的に存在すると考えています。自分というのもを意識して以来、ずっと私という存在がある、と思っていますが、仏教では決まった自分というものはないと説きます。あるのは様々な関係性の結果としてある自分であり、その関係性によっていかようにも変容する時分です。同時にこの世界はすべて同様にお互いの関係性によって成り立っており、いかようにも変化する存在です。一見不可解に思えるかもしれませんが、この世界に決まりきった存在を仮定しそれに縛られて生きている私たちの間違った見方を、根本から変えてくれるのが仏教の教えです。思い込みで固まった世界から、人間を自由にしてくれるのが仏教なのです。