解脱と煩悩

様々な言葉が仏教から取り入れられ、日常の中で意味を変えていく中で、「解脱」という言葉はいまだに俗化していない数少ない言葉ではないでしょうか。解脱とは文字通り、人間を縛っている様々なものから解放される、ということです。昔のインドの宗教はすべてこの解脱を目指していたといっていいでしょう。そのような土壌の中から現れた仏教も同様に解脱を大事にしてきました。人間を縛っているものとは何でしょう。仏教では、人間の激しく動く感情、底のない欲望、真理に暗い深い愚痴と、一言でいえば煩悩とそれによって引き起こされる苦悩が人間を縛っていると考えました。
「にんげんとはなにか」と聞かれたとき「煩悩にまみれて生きるもの」といえるのではないでしょうか。富とものを求める欲望は、そのむなしさを理解していてもとどまることを知りません。他人を自分の思い通りにしようとするわがままな要求も、権力と名誉に対する固執も、いくら非難されようと果てることはありません。思いが叶えば傲慢になり、かなわなければ怒り憎しみ、果てには恨みを抱きます。
煩悩からくる様々な思いが人間を縛り、苦しめているのです。そのことにむなしさを感じ日を求めたもの。解脱とは煩悩から自由になることですが、なかなか難しいといわざるを得ないでしょう。