尺取虫の迷惑

「迷惑」というと現代では不利益とか不都合という意味に使われます。しかし、漢字の意味を考えると「迷」本当の道に迷うことを意味し、「惑」は途方に暮れていることを意味します。漢字の意味から分かるように、この言葉は迷い戸惑うことを意味する仏教の言葉です。浄土真宗で七高僧といわれる方の中に曇鸞大師がおられます。この方が人のありさまを例えるのに尺取虫のたとえ話があります。尺取虫は植木鉢のふちを一生懸命に進んでいます。しかし、植木鉢な丸いのでどんなに進んでもぐるぐる回るだけでどこにもたどり着けません。人間は自分の執着のために本当の心理に気づかないことのたとえです。いつも目先のことにとらわれて、それがあたかも一番大切なことと思い、一生懸命になっていますが、その全体がむなしく過ぎてゆきます。念仏の教えがなければ、迷いにさえ気が付かず知らず知らずのうちに自分も他人も傷つけ、踏みつけにするような生き方しかできません。このような自他を傷つけるということから転じて、不都合という意味に使われるようになったのでしょう。